開催直前インタビュー

(2023-2-08)

開催直前インタビュー<p>(2023-2-08)
■開催直前インタビュー(2023-2-10)

“未来の音楽会”が目指す、音楽の楽しみ方の新しいかたちと可能性の広がり

-音楽と通信技術のコラボレーションが、不可能を可能にしていく-

いよいよ開催が迫る「未来の音楽会」。本公演に携わる音楽ライターの長井進之介さん が、コンサートの要である通信技術を担うNTTグループの担当者にコンサートにかける想 いを聞きました。

コロナ禍の影響により他者との“距離”を意識するようになり早3年。離れた場所にいる人 々に芸術を届けるためにオンラインの活用が急速に普及した。
その中でもNTTグループが開発中の低遅延通信技術を活用した画期的な試みに挑んだの が2022年3月に開催された「未来の音楽会」だった。通信によるタイムラグを限りなく少な くする技術により渋谷と西新宿をオンラインでつないだライブ演奏、“リアルタイム・リモ ート演奏”に成功したのだ。
そして2023年。今回は東京と大阪、さらに神奈川と千葉の4か所を繋いで、さらにスケ ールの大きなリモート演奏を行う。この試みは、離れていてもコンサートができるという ことの証明のみならず、まさに“未来の”音楽会の在り方を示すものでもあるのだ。
今回のコンサートの統括責任者であるNTT東日本 経営企画部 営業戦略推進室の黒川圭 二氏、企画・コーディネートを担当するNTT ArtTechnology デジタルアート推進事業部 大 和田龍夫氏に、「未来の音楽会」の目指すものについて伺った。

開催直前インタビュー<p>(2023-2-10)
2022年3月「未来の音楽会 」©三浦興一
ピアノデュオ「レ・フレール」が二手に分かれてリモート演奏に挑戦した。
東京フィルハーモニー交響楽団との共演もリモートで実現。


人々をつなぐ“コミュニケーション”のために
-「未来の音楽会」開催のきっかけ

-2022年3月の「未来の音楽会」はピアノデュオ「レ・フレール」と東京フィルハーモニ ー交響楽団(指揮:角田鋼亮)が渋谷と西新宿に分かれて演奏し、見事に調和していたの はもちろん、即興的な要素も交えてリアルタイムだからこそのスリリングな演奏も聞かせ てくださいました。これまでのリモート演奏では到底成しえなかったことが実現したわけ ですが、ここまでに至る経緯を教えて頂けますか?
大和田「NTTは電気通信事業の会社として、人と人をつなぐ“コミュニケーション”をお手 伝いすることを使命としています。一見、通信事業の会社と芸術とは結び付かないと思わ れるかもしれませんが、目的としては非常に近いものがあります」
黒川「NTT東日本とBunkamuraはこれまでも多くの機会でコラボレーションしましたが、 特にコロナ禍以降はライブ配信や海外への映像配信などでもお手伝いをさせて頂くように なりました。そんな折、NTTグループが開発している新たな通信技術を活用し、これまで にないリモート演奏のコンサートを開催することはできないかということになり、様々な 検討を重ねながら実現することができました」

-今回は前回よりも拠点が増え、距離も遠くなっていますね。
黒川「NTTグループは現在『IOWN』構想を進めております。膨大な情報を、消費電力を大 幅に低減しつつ多くの方に隔たりなく届け、多様性を受容できる豊かな社会への実現を目 指しています。「未来の音楽会」ではIOWN技術の要素を利用することで、リモート演奏 を試みておりますが、いずれは遠隔医療や自動運転、高精度未来予測にリモートワールド 、e-sportの分野にも活用なども検討しています」
大和田「この技術を利用して様々な可能性を広げるために、前回よりもさらに距離や拠点 を拡大し、より発展した「未来の音楽会」を皆様にお届けしていきたいと思います」



革新的な技術を目の前で体験できる貴重な場

2022年「未来の音楽会」指揮:角田鋼亮<p>(2023-2-10)
遠隔地にいる演奏者の様子をモニターで確認しながらタクトを振る。
ほとんど遅延を感じないため、違和感なく指揮することが可能になった。


“リモート”とつくとどうしても通常の生演奏とは少し違ったものになるのかと思われる方 も多いでしょうが、昨年私自身がホールで鑑賞して、奏でられる音楽の力、奏者の熱量が 感じられ、非常に感動しました。

大和田「ありがとうございます。昨年ご出演いただいたマエストロやレ・フレールのお二 人からはリハーサル時点から“一発で(演奏が)合った”、“まるで隣でピアノを弾いている ようだった”というご感想を頂きました」
黒川「会場のお客様にも違和感なく演奏をお楽しみいただくことが我々の願いです。いず れはこうした試みが距離も形も広がっていくように技術開発を進めていますので、本公演 は一足先に最新の技術をお楽しみいただける機会です」

大和田「日本には各地に個性のある素晴らしいオーケストラがたくさんあります。私は聴 きたいコンサートがあるときはなるべく出かけるようにしていますが、どうしても遠方に は赴けないことがあります。たとえば今回の試みのようにホール間を繋いで東京と各地方 のオーケストラの共演を聴くようになるなど、音楽を楽しむ機会がさらに広がっていく未 来を作り上げていきたいのです。今回はその第一歩になるといいなと考えています。ぜひ 多くの皆様にその貴重な瞬間を見届けて頂きたいと思います」


さらに“未来”へとつないでいくために

-今回は大阪会場では大阪芸術大学ウィンド・オーケストラも出演するなど、次世代への 意識も感じられます。最後に“未来の”というタイトルに込めた想いをお聞かせください

大和田「作曲家の創作と楽器の発展が密接な関係を持っているように、今後も通信技術の 発展が新しい音楽表現を生み出すなど、相互に発展を続ける関係を作り出していけると願 っています。ジュール・ヴェルヌが“人間が想像できることは、人間が必ず実現できる”と いう名言を遺しています。“本当は一緒にいたいのだけれど、事情があってそれができない ”、実際に、そんな困難を克服する技術があれば…という想像から、“遠く離れたあの人とリ アルタイムに音楽の感動を分かち合うことができたら”という想いにつながり、今回の演奏 会を開催することができました。今後さらに想像したことを実現できる機会は増えていく ことでしょう」
黒川「我々の技術が、コンサートはもちろん、いずれ遠隔のレッスンなどにも利用してい ただけることを目指しています。若い世代の人たちがより自由に学びや芸術を楽しむ場が 広がるためのお手伝いができればうれしいです。今回若い学生の皆さんにご協力いただけ ることはとても心強いですし、より豊かな音楽に溢れた未来へとつながっていく力強いア ンサンブルが奏でられる様をお客様にお楽しみいただけたらと思っています」
左 NTT東日本 黒川 右 NTT ArtTechnology 大和田<p>(2023-2-10)


取材・文:長井進之助(ピアニスト・音楽ライター)
『未来の音楽会』は果たしてどんな“未来”を見せてくれるのか。その様子はぜひ会場でご 体験ください。また、公演後にはアフターレポートも掲載予定です。公演とあわせてご期 待ください。
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